フォークリフトは危険な作業です。
安全な環境を整えるためにも、運転者だけでなく管理者や一緒に働く皆様も関係法規を理解する必要があります。
ここではフォークリフトに関する法律の中で重要度の高いものを紹介していきます。
災害防止やフォークリフト作業の管理にも役立つ内容をまとめました。
フォークリフト関係法令
フォークリフトの関係法令は2つです。
整備点検や運転資格についてすべてが定められています。
- 労働安全衛生法
- 労働安全衛生規則
労働安全衛生法とは
労働安全衛生法とは、労働災害防止の基準を定めた法律です。
企業は法律に従い、自主的にさまざまな措置を講じる義務があります。
労働安全衛生法にはフォークリフトについての条文があるので紹介します。
労働安全衛生法第61条
労働安全衛生法第61条は運転資格について定められています。また、同法施行令第20条第11号・労働安全衛生規則第36条も同様です。
- 最大荷重1t以上のフォークリフトは運転技能講習修了者であること。
- 最大荷重1t未満のフォークリフトは運転特別教育修了者であること。
労働安全衛生法第60条2
安全教育の実施について定められています。
フォークリフト作業は、危険または有害な業務に分類されます。
したがって、フォークリフト運転者に対し、定期的な安全衛生教育を実施が必要です。
1t以上のフォークリフト作業者に対し、5年ごとに厚生労働省が示したカリキュラムを受講させる必要があります。
内容 | 時間 |
---|---|
最近のフォークリフトの特徴 | 2 |
フォークリフトの取り扱いと保守 | 2 |
災害事例及び関係法令 | 2 |
合計 | 6 |
フォークリフト運転業務従事者安全衛生教育講習と呼ばれていて指定機関での受講も可能です。
労働安全衛生法第28条2
リスクアセスメント等の実施について定められています。
フォークリフト関連作業で生じる事前の危険性を把握し、リスクの低減を図ることが目的です。
作業巡視と並行して進めていく必要があります。
労働安全衛生規則
労働安全規則には労働安全衛生法の内容をより詳細に定めています。主に、整備点検や作業計画などについて明記されています。
労働安全衛生法との違いは法的拘束力の強さです。労働安全衛生法は国会が定めた法律で強い拘束力があります。
労働安全衛生規則は関係省庁が定めており法律に比べて拘束力は弱くなります。しかし、法律も規則も守らなければならないルールです。
内容を正しく理解し法令を遵守しましょう。
労働安全衛生規則第151条21、22、24、25、26
定期自主検査等の実施について定められています。
フォークリフトには損傷や故障が原因の災害を防止するために、3つの法定点検があります。
- 作業開始前点検
- 月次点検
- 年次点検
労働安全衛生規則第151条3
作業計画の作成、周知について定められています。
作業場所の地形や広さに応じて計画を立て労働者に周知し、安全に作業を進めることが目的です。
荷物の積み下ろしだけでなく、構内での走行や作業も含めた計画の作成が必要です。
計画を伝える際は口頭でも問題ありません。しかし、関係者全員に周知する必要があります。
ミーティングでの伝達や、作業計画書を作成して配布する方法が適切です。
労働安全衛生規則第151条の4
作業指揮者の選任について定められています。
現場のリーダーを決め作業計画の指揮をとることで、効率よく安全に作業を進めることが目的です。
社内の業務内容を熟知し、トラブルに対応できる方が適任です。
労働安全衛生規則第151条10
偏荷重が生じないような積載、荷崩れ防止措置について定められています。
偏荷重(へんかじゅう)とは荷物の重さが左右どちらかに偏ることです。
偏荷重の生じた荷物をフォークリフトで扱うと、転倒や荷崩れを起こす危険があります。
労働者を転倒や荷崩れの危険から守るための対策の実施が必要です。
労働安全衛生規則第151条11
フォークリフトの停車時について定められています。フォークリフトから離れるときは、以下の2つの項目を実施することで、災害の発生を防止します。
- フォークを最低降下位置まで下げる
- 逸走防止措置(エンジン停止)を確実に行う
労働安全衛生規則第151条9、14
フォークリフトの荷役作業を行う労働者の遵守事項について定められています。内容は以下の2つになります。
- フォーク等の下部への立入禁止
- フォークリフトの用途外使用(荷のつり上げ、人の昇降など)
労働安全衛生規則第151条5
フォークリフトの速度制限について定められています。
作業場所の地形に応じて適切な速度制限を決めることで、作業の安全性を高まります。
「最高速度が10㎞以下のものを除く」と条文に記載されています。速度制限は10㎞以下に設定してください。
構内の危険箇所は、速度制限をより厳しく設定することが望ましいです。徐行や一時停止なども取り入れましょう。
労働安全衛生規則第6条
職場巡視の実施について定められています。
安全管理者がフォークリフト作業場を巡視し危険防止の措置が目的です。
巡視項目は以下のとおりです。
- 建設物、設備、作業場所、作業方法の危険防止
- 安全装置、保護具、危険防止設備、器具の定期点検・整備
- 安全作業についての教育・訓練
- 災害の発生原因の調査と対策
- 消防、避難訓練
- 作業主任者、その他の安全に関する補助者の監督
- 安全対策資料の作成、重要事項の記録
- 関係事業者の安全確保
労働安全衛生規則第151条7
接触防止措置の実施について定められています。
- フォークリフトや荷との接触危険箇所への立入禁止
- 運行経路と歩道の分離
- 誘導者の配置
- 標識の設置
フォークリフト安全作業マニュアル
フォークリフトの安全作業実施のために、マニュアルを作成し従業員へ指導を行います。
また、作業者には作業内容の周知も必要です。
作業内容を的確に伝えるために、作業計画書を作成しましょう。
作業計画書の作成は労働安全規則により定められています。
フォークリフト安全教育の実施には下記の厚生労働省の資料を活用してください。
フォークリフトの安全教育におすすめのテキスト
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作業計画書
作業計画書の必要性
第百五十一条の三
事業者は、車両系荷役運搬機械等を用いて作業(不整地運搬車又は貨物自動車を用いて行う道路上の走行の作業を除く。以下第百五十一条の七までにおいて同じ。) を行うときは、あらかじめ、当該作業に係る場所の広さ及び地形、当該車両系荷役運搬機械等の種類及び能力、荷の種類及び形状等に適応する作業計画を定め、かつ、当該作業計画により作業を行わなければならない。
引用元:厚生労働省
作業計画書の作成は労働安全衛生規則151条の3で定められています。
作業場所の広さ、地形、車両の種類に応じた作業計画を作成し遂行する必要性があります。
作業計画書の更新
作業計画書は毎日作成し更新しましょう。同じ作業でも指示や留意事項の変更が必要です。
作業計画書例・見本
上記で紹介した作業計画書には20個の必要事項を記載しましょう。
- 社内審査確認印(事業主、安全管理者、作業指揮者、運転者)
- 作成年月日
- 計画作成者
- 作業名
- 作業内容
- 実施期間
- 作業人数
- 作業時間
- 荷(品名、荷姿、形状、個数、1個の重量)
- 荷の状態
- 作業指揮者(指名、役職、作業経験年数、フォークリフト知識の有無)
- フォークリフト運転者(運転者、技能講習修了番号、資格取得年月日、作業経験年数)
- フォークリフトの種類・能力・点検状況(車両番号、最大荷重、開始前点検状況、月例検査実施状況、特定自主検査実施日)
- パレット等の能力・点検状況(強度、破損状況、突起物の有無)
- 作業場所状況(広さ、路面、場所区分、坂道傾斜の有無、段差の有無、幅員狭小箇所の有無、高さ制限箇所の有無、路肩危険個所の有無、一旦停止箇所の有無、障害物の有無、明るさ)
- 制限速度(時速、制限速度掲示の有無)
- 誘導者(配置の有無、指名、合図の有無、退避場所の有無)
- フォークリフト作業図(運行経路、立ち入り禁止箇所、走行禁止箇所、標識、一旦停止箇所、誘導者・作業指揮者の配置場所)
- 作業開始前・作業中留意事項の確認
- 関係労働者への周知
単独作業の作業計画
単独作業においても作業計画の作成は必要ですが、作業指揮者の選任は不要になります。
作業指揮者は安全衛生規則151条の4の定めにより選任が必要です。
しかし単独作業では、労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について(基発第78号)により不要または、兼任できる旨が通知されています。
第151条の4関係
本条の作業指揮者は、単独作業を行う場合には、特に選任を要しないものであること。また、はい作業主任者等が選任されている場合でこれらの者が作業指揮を併せて行えるときは、本条の作業指揮者を兼ねても差し支えないものであること。なお、事業者を異にする荷の受渡しが行われるとき又は事業者を異にする作業が輻輳するときの作業指揮は、各事業者ごとに作業指揮者が指名されることになるが、この場合は、各作業指揮者間にておいて作業の調整を行わせること。
引用元:厚生労働省
フォークリフト用途外の禁止作業
フォークリフトの主な用途は積み込みや荷下ろしの荷役作業です。
フォークリフトの用途外使用は労働安全衛生規則151条の14で禁止されています。
(主たる用途以外の使用の制限)
第百五十一条の十四 事業者は、車両系荷役運搬機械等を荷のつり上げ、労働者の昇降等当該車両系荷役運搬機械等の主たる用途以外の用途に使用してはならない。ただし、労働者に危険を及ぼすおそれのないときは、この限りでない。
引用元:厚生労働省
フォークリフト吊り作業
フォークリフトの吊り作業は用途外使用のため、労働安全規則151条の14で示された通り原則禁止です。
しかし条文の後半には、「労働者に危険を及ぼすおそれのないときは、この限りではない。」とあります。
吊り作業は原則禁止ですが、労働者の安全が確保できれば吊り作業も可能と解釈できます。
やむを得ずフォークリフトで吊り作業を行う場合は何らかの安全対策が必要です。下記に例を示しました。
吊り作業専用のアタッチメントを爪に装着
アタッチメント未装着で直接爪にフレコンを吊って運搬すると危険です。
走行時の振動でロープ滑り落下したり、摩耗でちぎれたりする事故が起きています。
フック型のフレコン吊り具を装着が望ましいです。
また基発第602号には、フォークリフトが移動式クレーンには含まれないと明記されています。
第八号の移動式クレーンには、フオークリフト、揚貨装置およびストラドルキヤリヤーは含まれないこと
引用元:厚生労働省
そのため、吊り作業用のアタッチメントを装着したフォークリフトは移動式クレーンではありません。
フォークリフト運転技能講習修了資格を保有していれば、運転操作が可能です。
小型移動式クレーンや玉掛の資格は不要になります。
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アタッチメント以外にもマグネット式のフレコン滑り止め吊り具もあります。
走行時は速度を落とす
荷が横揺れするとフォークリフトがバランスを崩し転倒する危険があります。とくに、旋回時は慎重な運転が必要です。
また、横揺れでフレコンのロープ部分がちぎれることもあるので走行時は速度を落としましょう。
牽引
フォークリフトでの荷の牽引作業は禁止です。
牽引は、爪で荷を持ち上げるというフォークリフトの用途とは全く別になるからです。
労働者の安全も確保できません。牽引作業による事故で書類送検された事例もあります。
ゴンドラに人を乗せて作業
第百五十一条の十三 事業者は、車両系荷役運搬機械等(不整地運搬車及び貨物自動車を除く。)を用いて作業を行うときは、乗車席以外の箇所に労働者を乗せてはならない。ただし、墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じたときは、この限りでない。
引用元:厚生労働省
第151条の14関係
(1) 本条は、墜落のみでなく、はさまれ、まき込まれ等の危険も併せて防止する趣旨であること。
(2) ただし書の「危険を及ぼすおそれのないとき」とは、フォークリフト等の転倒のおそれがない場合で、パレット等の周囲に十分な高さの手すり若しくはわく等を設け、かつ、パレット等をフォークに固定すること又は労働者に命綱を使用させること等の措置を講じたときをいうこと。
引用元:厚生労働省
フォークリフトでパレットの上に人を乗せ作業することは上記で示した法令により原則禁止です。
しかし条文には、「危険防止措置を講じたときはこの限りではない。」と後述されています。
この場合の危険防止措置は4つです。
- フォークリフトの転倒危険が無い
- パレットとフォーク部分を固定
- パレットの周囲に高さのある手すり・枠を設置
- 労働者に命綱を使用
そのため、運搬などで使用されているパレットに人を乗せることはできません。
専用のゴンドラパレットをフォークに固定してください。
高所作業になるので、ゴンドラへは命綱とヘルメットを装着した人が搭乗しましょう。
まとめ
フォークリフトの関係法規は労働安全衛生法と労働安全衛生規則の2つに定められています。
フォークリフト運転者だけでなく管理者も法令を理解する必要があります。
また、フォークリフト作業には作業計画が必要です。毎日作業計画を作成し安全への留意事項を更新しましょう。
フォークリフトでの吊り作業と人を乗せた作業は原則禁止です。
しかし、安全措置を講じて労働者に危険が及ばないようにすれば作業は可能になります。
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